あなたは、ヘーゲルの弁証法がどのようなものか知りたいと思っているのではないだろうか。
ヘーゲルの弁証法は一般教養として身に付けておきたい知識であるが、難しく感じられるところもある。
そこで、今回の記事では、ヘーゲルの弁証法がどのようなものか、豊富な実例を使いながらわかりやすく解説した。
この記事を読めば、誰でもヘーゲルの弁証法について理解を深められるはずである。
この記事に書かれていること
記事に書かれていることを短くまとめると、下記のようになります。
補足として、すぐに結論が知りたい方は、「ヘーゲル弁証法」の項目をご覧ください。
「弁証法の実例」を一緒に見ると、より理解が深まると思います。
・弁証法とは?→「論理的思考の型」の一つ。その歴史は長く、複数の関連人物がいる。
・ヘーゲルの弁証法とは?→対立した意見を乗り越えて、より高い段階へ進もうとする思考法。
・弁証法の実例→「ヘーゲルの弁証法」を理解しやすくするために、カジュアルな例を3つ紹介。
弁証法の基礎知識
ここでは、「弁証法全体の概要」について、いくつかの項目から解説する。
弁証法とは?
弁証法とは、哲学の世界で使われる用語である。弁証法をかみ砕いていうと、「論理的思考の型」の一つだ。
論理的思考は感覚に頼るのではなく、理性的に道筋を立てて物事を考える態度を指す。
なお、弁証法以外にも「論理的思考の型」はいくつかあるので、気になる人は下の記事を参考にしてほしい。
弁証法の歴史
弁証法の歴史は古く、それはギリシア哲学まで遡る。この頃から、弁証法という用語はすでに使われており、「議論の技術」というような意味合いだった。
その後、時は流れてドイツの哲学者・ヘーゲルが登場。ヘーゲルは弁証法を決まった法則に落とし込んだ。現代において、弁証法の意味として説明されるのはこれが最も多い。
さらに、ドイツの経済学者・マルクスがヘーゲルの弁証法を継承する。これが、弁証法の歴史のざっくりとした流れである。
重要人物
弁証法に関係する重要人物は何人かいる。ただ、現代社会で「弁証法」という用語を使うとき、ほとんどは「ヘーゲルの弁証法」を意味する。
つまり、「弁証法≒ヘーゲル」と覚えておけば問題はない。
そのヘーゲルを中心として、よく名前が挙がる人物を三人紹介しよう。
ソクラテス
ソクラテスは古代ギリシアの哲学者である。西洋哲学の基礎を築き、特に倫理学の先駆者の一人として紹介されることが多い。
古典的な意味で「弁証法」という用語を使う場合、ソクラテスの問答法 (相手に無知を自覚させつつ、真理へ導くやり方) を指していると考えてよいだろう。
ヘーゲル
ヘーゲルは18~19世紀に活躍した、ドイツの哲学者である。「ドイツ観念論」と呼ばれる哲学思想を代表する人物の一人でもある。
ヘーゲルは、真理に到達する手段として「弁証法」を考えた。発展的な思考法であるヘーゲルの弁証法は、現代でも注目を集めている。
なお、ヘーゲルの代表的著書「精神現象学」は、「哲学書の中で最も難しい」一冊として有名である。興味のある人は、サンプル文や目次を一読してみるだけでも、その難解さを感じられるはずだ。
マルクス
マルクスは19世紀に活躍した、ドイツの哲学者であり、経済学者である。社会主義や労働運動に強い影響を与えた人物として有名だ。
弁証法の文脈でいえば、ヘーゲルのそれを継承したのがマルクスである。そのため、ヘーゲルとマルクスはセットで語られることも珍しくはない。
また、マルクス執筆の「資本論」は世界中に影響を与えた一冊だ。内容はヘーゲル同様難しいが、資本主義の行き詰まりが指摘される近年において、再び注目が集まっている。
ヘーゲル弁証法の概要
前項で述べた通り、現代で弁証法という用語を使うときは、「ヘーゲルの弁証法」を指していることがほとんどである。
そこで、ここでは、ヘーゲルの弁証法についてより詳しく解説する。
なお、言葉だけでは理解しにくいと思うので、補足の画像も見ながら読んで欲しい。
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ヘーゲルの弁証法とは?
ヘーゲルの弁証法とは、対立 (矛盾) する物事が両方を通じて、よりレベルの高い物事に昇華されるという考え方である。
対立する物事はそれぞれ、「テーゼ (正)」⇔「アンチテーゼ (反)」と呼ぶ。
そして、対立を乗り越えてよりレベルの高い次元に進化することは「ジンテーゼ (合)」と呼ばれる。このときの進化していく過程が「アウフヘーベン (止揚:しよう)」である。
具体的に解説
もう少し具体的に説明すると、「A」と「B」の二つの意見が対立していたとする。Aはテーゼ (正) 、Bはアンチテーゼ (反) である。
このとき、Aという状態に留まって答えを探そうとするのではなく、A↔Bという状態を受け入れつつ、そこからよりよい意見を生み出そうとする (「アウフヘーベン (止揚 )」) 。
AとB、両方を受け入れたうえで、より良い意見「Z」が現れれば、それは「ジンテーゼ (合)」となるのである。
重要用語
ここでは、それぞれの用語の意味をより詳しく解説する。
簡単な例も付けたので、それを見ながらだとより理解しやすいだろう。
テーゼ (正)
テーゼとは、哲学用語であり、日本語では「定立」と訳される。
哲学的に訳すと難しいが、要は一つの意見、物事、事実などのことである。意見A、物事A、事実Aなどと理解してもよいだろう。
【例】
私は若くて元気なアーティストです (=生)。
アンチテーゼ (反)
アンチテーゼも哲学用語である。これは日本語で「反定立」と訳される。
意味はテーゼに対立 (反対) する意見、物事、事実などのこと。たとえば、意見Aに対する、反対意見Bである。
「アンチ」という言葉は日常生活でも使われているので、多くの人は感覚的にわかるのではないだろうか。
【例】
若くて元気なアーティストである私も、やがては老いて亡くなります (=死)。
ジンテーゼ (合)
ジンテーゼも哲学用語であり、日本語で「総合」と訳される。
テーゼ(正)とアンチテーゼ(反)を統一し、対立や矛盾を解決するという意味である。
【例】
私の肉体が死んでも、その精神 (≒心) は「作品」という形で残ります。
アウフヘーベン (止揚)
アウフヘーベンももちろん、哲学用語である。日本語では、「止揚 (しよう)」と訳される。
意味は、テーゼ (正) とアンチテーゼ (反) の対立関係から、ジンテーゼ (合) へ導いていく(上へ引きあげる) 行為を指す。
【例】
私の精神を「作品」という形で残すために、日々制作をがんばります。
ヘーゲル弁証法の実例
より理解を深めるため、ヘーゲル弁証法を使った例をいくつか紹介したい。
なお、実例の内容はここまで読んでもピンとこないという方のために、よりカジュアルでわかりやすいものを選んだ。
人によっては、くだらない内容と思われるかもしれない。しかし、厳密さよりも、感覚で理解できることをここでは優先した。
弁証法の例 ①
DBで言えば、ライバル関係にある孫悟空とベジータがフュージョンして、ゴジータになろうという考え方。
引用元:https://x.gd/5Opo2
感覚的にわかりやすいと思ったので、上記の例を紹介する。DBというのは、鳥山明原作のバトル漫画、ドラゴンボールのことである。
若い世代など知らない方のために補足しておくと、主人公の悟空とベジータがライバル関係なのは上記の通り。
その二人がいがみ合うのではなく、フュージョン (合体) すれば、より強いキャラになって高い次元に到達できるということである。
弁証法の例 ②
(テーゼ:正)パンを食べる (欠点→たんぱく質が足りない)
(アンチテーゼ:反)ハンバーグを食べる (欠点→炭水化物が足りない)
お互いの欠点を補い(アウフヘーベン:止揚)されて
(ジンテーゼ:合)ハンバーガーを食べよう (欠点を補い合った最高形態)
引用元:https://x.gd/m6p5K
強引な感じもするが、これも感覚的にはわかりやすいのではないだろうか。
お互い足りない栄養素があるので、どちらか一方ではなく、両方を融合させた料理をつくって食べるというのがジンテーゼ (合) になる。
弁証法の例 ③
A「これは三角でしょ?」
B「いやいや丸じゃね?」
アウフヘーベンしたら・・・「これは円錐ってヤツだ」になる。
引用元:https://x.gd/6WwXA
円錐とは、底が円になって尖った立体のこと。簡単にいえば、富士山は円錐に近い形をしている。
そんな円錐もある一方的な視点からしか見ていなければ、三角に見えたり、丸 (円) に見えたりする。
しかし、両方の意見を上手く合わせて多面的に見れば (アウフヘーベン) 、それが「円錐」だと気づくだろう (ジンテーゼ:合) という例である。
ヘーゲルの弁証法は発展的な思考法
弁証法の歴史は長く、一言で説明することはできない。ただ、現代でその用語を使うときは「ヘーゲルの弁証法」を指していることがほとんどだ。
ヘーゲルの弁証法は、対立 (矛盾) する状況から、よりよい新しい「知」を生み出そうとする論理的思考の方法である。
最後にヘーゲルの哲学は難解なことで有名だが、初心者でもわかりやすいと評判のムック本が発売された。ヘーゲル (弁証法) についてさらに学びたい人は、入門書として手に取ってみるのもよいだろう。
補足① (より詳しく知りたい方へ)
学問的な厳密さでいうと、ヘーゲルの弁証法とは、対立する二つのものを単に「合体」させたり、「妥協点」を見つけたりすることではない。
対立 (矛盾) する状況から逃げずに考え抜き、そこからより高次元を目指していく (昇華させる) 思考法を指す。
基本的には、この記事で解説したことを理解してもらえれば問題ない。しかし、上記のような意味でより詳しく正確に理解したいなら、ヘーゲルに関する書籍をあなた自身でも読むことをおすすめする。
補足② (ヘーゲルの入門書)
ここでは、補足②として、本文最後に入門書としておすすめした「100分 de 名著 ヘーゲル『精神現象学』」がどのようなものか、少しだけ内容を紹介したい。
「100分 de 名著」とは?
「100分 de 名著」とは、NHK出版がシリーズ化しているムック本である。
「100分」とタイトルに入っているように、世界の名著を「100分=手軽」に読み解いていくことをコンセプトとしている。ヘーゲルの精神現象学もこのシリーズで取り上げられた。
一度は読みたいと思いながらも手に取らなかったり、途中で挫折してしまったりした古今東西の「名著」を25分間×4回=100分で読み解きます。各界の第一線で活躍する講師がわかりやすく解説。
引用元:https://00m.in/TwsJM
なお、このシリーズは本だけではなく、NHKのテレビ番組で放送もされているが、そちらが未視聴で本だけ読んでも問題はない (実際、私自身番組は見ていないが問題なかった) 。
具体的な内容紹介
本の著者 (講師) は東京大学准教授の斎藤幸平氏。マルクスやヘーゲルを研究し、著書「ゼロからの『資本論』」がベストセラーになるなど、今注目の若手学者である。
斎藤氏の魅力の一つは、難しい内容をとてもわかりやすく解説してくれるところだ。
哲学系の入門書は、わかりやすいといいつつも読みなれていないと時間がかかることもあるが、この一冊は本当にスルスルと読めるだろう。
その他、具体的な内容として特徴的なのは、「現代社会の問題」と絡めて解説されているところである。
たとえば、目次の二つ目には「論破がもたらすもの」とある。これは近年ネットで盛んな文字通り「論破」という行為を指している。
このような現代社会と接点をもってヘーゲルの考え方が解説されているので、ヘーゲルをより身近に感じながら理解できる。
もちろん、これだけでヘーゲルの全てを理解するのは無理だが、「ヘーゲルの思考法」について興味があるなら、まずはおさえておいて損はない一冊といえるだろう。
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