神智学の歴史は古く、現代ではメジャーな存在といえなくなった。ただ、神智学がつくりあげてきた思想体系の一部は形を変え、今でも生きている。
今回の記事では、複雑な神智学の意味や概要について、分かりやすく解説する。
この記事に書かれていること
この記事に書かれていることを短くまとめると、下記の通り (①~③) となる。
なお、神智学と関係が深い「人智学」については、別記事で詳しく解説している。
①神智学とは何か? 定義を解説
→複雑で理解しづらい、神智学の定義を知ることができる。
②近代神智学について解説
→現代人と関係が深い、「近代の神智学」について知ることができる。
③近代神智学の影響について解説
→どのようなものが近代神智学の影響を受けたのか、知ることができる。
神智学とは?
ここでは、神智学を理解するうえで必要な「語源」と「定義」について解説する。
語源
神智学 (しんちがく) という用語は、ギリシア語で神を意味する「theos・テオス」と、知恵を意味する「sophia・ソフィア」を合成したものから来ている。
両方を合成すると「theosophy・テオソフィー」となり、これが神智学の語源である。
定義
神智学はいろいろな意味を持つ言葉であり、一言で神智学を定義 (意味の説明) することは難しい。
ただ、大まかに神智学という言葉の定義を考えると、下記の3つに分類される。
[神智学の定義]
①グノーシス主義など、「古代の宗教思想や哲学の一部分」のこと。
②17世紀に欧州で流行した「キリスト教神智学」のこと。
③1875年に設立された「神智学協会の思想」のこと。
この中でも、現代的な意味で使われる神智学を理解するうえで重要なのは、③「神智学協会の思想」である。
そのため、これ以降の項目では、③「神智学協会の思想」を中心に解説する。
[神智学の定義・まとめ]
・神智学の定義は大きく分けて3つある。
・現代的な意味で重要なのは「神智学協会の思想」である。
・「神智学協会の思想」については、次項でも詳しく解説する。
神智学協会 (近代神智学) 概要
神智学には多数の流派があるが、近代における神智学として取り上げられることが多いは、1875年に設立された「神智学協会」の思想体系である。
つまり、「近代神智学≒神智学協会」ともいえる。ここでは、その概要について、いくつかの項目に分けて解説する。
基本情報
神智学協会は1875年、ロシア出身の「ヘレナ・P・ブラヴァツキー」、アメリカ出身の「ヘンリー・スティール・オルコット」を中心として設立された。
協会のスローガンは「真理にまさる宗教はない」であり、その思想体系は非常に複雑なものとなっている。
神智学協会の大きな特徴としては、西洋の伝統的思想の中に仏教やヒンドゥー教など、東洋の思想を組み入れたことにある。
また、神智学協会は設立当初はもちろん、現代においても影響力がある (21世紀現在の本部はインド、日本にも神智学協会は存在する) 。
主要人物と著作物
神智学協会の提唱する思想は複雑であり、簡単には理解できない。ただ、理解を深めるうえで「カギ」となる人物や著作物はある。その代表的なものは、下記の通りである。
ヘレナ・P・ブラヴァツキー
神智学協会を理解するうえで最も重要な人物がヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー (1831~1891年) である。彼女は近代神智学を提唱し、神智学協会の設立者でもあるからだ。
ロシア出身のブラヴァツキーの生涯は謎に包まれた部分も多く、彼女自身の神秘的な雰囲気と相まって、数々の逸話を生みだした。
ブラヴァツキーによれば、「神智学 (神智学協会の思想) は宗教ではなく、神聖な知識又は科学」だという。
ヘンリー・S・オルコット
ヘンリー・スティール・オルコット (1832~1907年) はアメリカで生まれ、神智学協会設立者の一人となり、同協会の初代会長も務めた人物である。
オルコットは仏教に関心が強く、西洋的な視点から仏教を翻訳したことで評価されている。協会設立後はインドに滞在し、協会普及活動の他、仏教に関する本を出版するなど精力的に働いた。
シークレット・ドクトリン
「シークレット・ドクトリン 」とは、ヘレナ・P・ブラヴァツキーが執筆した本である。タイトルは日本語で「秘密教義」という意味。神智学協会における思想の基礎となっている。
また、この本に書かれている内容は、ブラヴァツキー自身が学んだ東洋思想 (仏教やヒンドゥー教など) を下敷きにしながらも、独創性が強く多くの人々に影響を与えた。
内容そのものは難しいが、日本語の翻訳本も出ているので、気になる人は実際に手に取ってみるのもよいだろう。
思想と目的
ブラヴァツキーと神智学協会が提唱している、柱となる「思想」と「目的」は下記の通りである。
[3つの思想]
引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/神智学#ブラヴァツキーと〈神智学〉運動
1.全宇宙の根底には、一つの絶対的で人智を超えた至高の神霊や無限の霊力が存在しており、見えるものも見えないものも含めた万物の根源になっている、という思想。
2.普遍的な魂からの放射である人間は、その至高の神霊と同一の本質を共有しているがために初めから永遠で不滅である、という思想。
3.「神聖な作業」を通じて神々の働きを実現する、という思想。
[3つの目的]
1.人種、信条、性別、階級、肌の色の違いにとらわれることなく、人類愛の中核となること。
2.比較宗教、比較哲学、比較科学の研究を促進すること。引用元:http://theosophy.jp/神智学協会について/
3.未だ解明されない自然の法則と、人間に潜在する能力を調査研究すること。
神智学協会が与えた社会的影響
神智学協会 (ブラヴァツキーが体系化した思想) は、社会的にもさまざまな分野へ影響を与えた。ここでは、その具体的な内容について見ていこう。
芸術家への影響
神秘的で複雑な神智学協会の思想体系は、芸術家の創作に潤いを与えた。その思想をインスピレーション (直感などの閃き) として、新しい表現を開拓したのである。
[影響を受けた芸術家一覧]
・カンディンスキー (ロシア / 画家)
・モンドリアン (オランダ / 画家)
・クリント (スウェーデン / 画家)
・ラヴクラフト (アメリカ / 小説家)
・クリジャノフスカヤ (ロシア / 小説家)
・メーテルリンク (ベルギー / 詩人)
・イェイツ (アイルランド / 詩人)
・スクリャービン (ロシア / 作曲家)
オカルトへの影響
神智学協会の思想は「オカルト」や「スピリチュアル」の世界にも大きな影響を与えた。現代においても、これらのジャンルでは、神智学協会の思想を下敷きにして発展したと考えられるものが多い。
[影響を受けた社会活動一覧]
・ニューエイジ (オカルトやスピリチュアルの基になった自己意識運動)
・カウンターカルチャー (主流文化に反する運動、ニューエイジの価値観を支持)
・オカルト&スピリチュアル関係全般 (心霊治療・交霊・UFO・新興宗教・西洋占星術など)
エーテル体について
エーテル体(エーテル) という言葉は、比較的有名である。ブラヴァツキーが提唱した神智学でもこの用語は使われており、「魂の体、創造主の息」のことだという。
また、神智学と似た性質を持つ「人智学」では、「生命体」と呼ばれている。
さらに、19世紀の自然科学では「光を伝達する仮想物質」として紹介されている。このようにエーテル体は複数の意味を持ち、いろいろな場面で使われてきた用語なのだ。
神智学は複雑で奥深いものである
神智学はさまざまな学問や思想を取り込んだ複雑な体系を持ち、時代によっても定義が変わってくるので分かりづらいものとなっている。
ただ、近代の神智学で重要なのは「神智学協会」が提唱した思想であり、その思想は他の社会活動にも影響を与えたことは理解しておきたい。
神智学協会の思想に影響を受けた社会活動には、現代でも文化として定着している「オカルト」や「スピリチュアル」が含まれている。
そして、その思想体系をつくりあげた重要人物こそ、ブラヴァツキーなのだ。この辺りの事実は現代人にも興味深く、神智学を読み解いていくきっかけとなるだろう。
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