あなたはデ・キリコの名言について知りたいと思っているのだろう。名言が好きな人は世の中にたくさんいるが、キリコの場合、それに注目して扱っている媒体は少ないのも事実である。
そこで今回は、デ・キリコの名言を集めて、わかりやすくまとめた。
この記事を読めば、名言をじっくり味わえるのはもちろん、デ・キリコという画家の人間性や作品を読み解くヒントにもなるだろう。
この記事に書かれていること
この記事に書かれていることを簡単にまとめると、下記のようになります。
ざっくりいえば、前半はキリコの名言紹介、後半は関連資料を紹介しています。
デ・キリコってどんな人?→20世紀に活躍したイタリア人画家。
デ・キリコの名言集→日本語と英語それぞれで、キリコの名言10選を紹介。
デ・キリコを深く味わう→読みやすいと評判の入門書などを紹介。
ジョルジョ・デ・キリコってどんな人?
ジョルジョ・デ・キリコ (1888年 – 1978年)とは、イタリア人の画家である。「形而上絵画」と呼ばれる独特の作風 (上掲画像はその一例) で有名になり、美術の歴史に名を残した。
キリコやその作品に関する詳しい情報は、下記の関連記事でも解説している。
ジョルジョ・デ・キリコの名言紹介
ここでは、デ・キリコの名言を「日本語」と「英語」で10選紹介する。
キリコは芸術家らしく、自身作品や他の作家に関する発言が多い。名言の下にある文章は、個人的な雑感や補足などである。
なお、一部は名言というよりは、ただの悪口にしか聞こえないものもあるが、本人のキャラなので敢えてオブラートに包まず紹介している。
デ・キリコの名言①
ベックリンの時代が終わり、ニーチェの神秘的な感情とイタリアの午後の憂鬱を描こうとした。
引用元:https://00m.in/QTsXz
Now that Becklin’s time was over, I tried to portray Nietzsche’s mystical feelings and the melancholy of an Italian afternoon.
ベックリンとは、キリコが一時期影響を受けていた画家のことである。「死の島」という、暗い雰囲気の作品がよく知られている。
ニーチェは、日本でも人気のある、19世紀のドイツ哲学者だ。ニーチェやイタリアの何気ない午後の様子から、何かを感じ取り作品をつくり出すという行為が画家らしい。
ニーチェやイタリアの風景は、キリコにとって新しい作品を生み出すための「触媒 (しょくばい/スパイスのようなもの)」だったのだろう。
デ・キリコの名言②
影の中にはあらゆる宗教よりも多くの謎がある。
There are more mysteries in the shadows than in any religion.
引用元:https://00m.in/yNmqm
抽象的で意味深な言葉だが、実際キリコの作品の中には、「影」がよく出てくる。
たとえば、「通りの神秘と憂愁」という作品では、手前の少女と遠方にある彫像は共に「影」で描かれている。
遠方の彫像は死などのネガティブな象徴といわれているが、その言葉同様に抽象的で、さまざまに解釈できるのが面白いところだ。
デ・キリコの名言③
デ・キリコは誰にも似ていない。
De Chirico is like no one else.
引用元:https://00m.in/UXvtq
厳密にいうと、これはキリコの発言ではない。小説家で文芸評論家のアポリネールがキリコを評したときの言葉である。
一般的に、キリコの初期作品はシュルレアリスム (20世紀の芸術運動) の一部とされているが、作品そのものはシュルレアリスムが盛り上がる前からつくられていた。
つまり、キリコはシュルレアリスムに触発されたり、影響を受けたりしたわけではなく、文字通り「誰にも似ていない=独創性」な作品制作をしていたのだ。
デ・キリコの名言④
ゴーギャンは偽物の画家。セザンヌの風景画は稚拙で醜悪。マティスは絵の形にすらなっていない。
Gauguin is a fake painter. Cézanne’s landscapes are poor and ugly. Matisse is not even in painting form.
引用元:https://00m.in/gMjWj
名言というよりは、単に低俗な悪口のようにも思えるが、キリコのキャラが表れているので紹介する。
この言葉からもわかるように、キリコは物事をはっきりという毒舌家だった。よく解釈すれば、当たり障りない表現でごまかさない、自分に正直な人ともいえる。
しかし、仮に心の中でこのように思っていたとしても、ここまでストレートに表現するのは強烈である。
デ・キリコの名言⑤
芸術作品が真に不滅なものになるには、人間の限界を完全に超えなければならない。理性や常識を徹底的に排することだ。
For a work of art to be truly immortal, it must completely transcend human limitations. It is a thorough rejection of reason and common sense.
引用元:https://00m.in/gMjWj
デ・キリコは一時期、シュルレアリスムのメンバーとも交流があった。最終的には、そのメンバーとも決別してしまうが、この名言はシュルレアリスムの匂いも強く感じさせるものである。
具体的に、どのような意図でこの発言をしたか分からない。ただ、理性や常識を排するという姿勢は、シュルレアリストの基本的なそれに通じるといえるだろう。
デ・キリコの名言⑥
アンドレ・ブルトンは無能な出世主義者。
引用元:https://00m.in/gMjWj
Andre Breton is an incompetent careerist.
アンドレ・ブルトンとは、シュルレアリスム (20世紀芸術運動) の中心人物の一人である。シュルレアリスムを仕切っていたが、横暴な面もあり、ダリもグループから追放された。
また、ブルトンは派閥主義者だったので、ダリ以外にも、自分に合わない人間は容赦なく除名、多く人間がそのやり方に反発していた。
そのため、この発言はある程度は正しいといってよいだろう。一切忖度せず切り捨てるような一言は流石キリコである。
デ・キリコの名言⑦
初めてその風景を見るような奇妙な感覚を覚え、心の中に絵の構図が浮かび上がってきた。今でもこの絵を見るたびに、その瞬間が蘇る。しかし、その瞬間は説明が難しいもので、そこから生まれた作品もまた、私にとっては謎なのだ。
引用元:https://00m.in/NvXvl
I had a strange feeling as if I was seeing the landscape for the first time, and the composition of the painting appeared in my mind. Even now, every time I look at this painting, the moment comes back to me. But that moment is difficult to explain, and the work that emerged from it is also a mystery to me.
若いころの代表作 (形而上絵画) が初めて生まれる瞬間を語った名言である。
他の項目でも述べた通り、キリコは物事をはっきりという性格だったが、この名言は20代特有の「心の繊細さ」も感じさせる。
そのような二面性を知ると、キリコの人間的魅力も見えてくるのではないだろうか。
デ・キリコの名言⑧
特に必要なのは、世界の全てを謎と見なす高い感受性である。世界に住むとは、奇妙なもので溢れた巨大な美術館にいるようなことだ。
What is especially needed is great sensitivity: to look upon everything in the world as enigma….To live in the world as in an immense museum of strange things.
引用元:https://00m.in/tScuO
「謎」はキリコ本人や作品を読み解くときの、一つのキーワードである。そして、世界の全てを謎とする態度は、哲学にもつながる。
初期の作品シリーズが「形而上絵画」と名付けられているように、キリコは哲学 (形而上は哲学の大きな学問分野の一つ) からも影響を受けていた。
形而上とは、簡単にいえば目でみることができない抽象的世界のことだが、キリコの初期作品のイメージによく合う表現といえるだろう。
デ・キリコの名言⑨
目に見えるものをそのまま受け入れず、それを超越していく。それこそが形而上絵画の本質だ。
He does not accept what he sees as it is, but transcends it. That is the essence of metaphysical painting.
引用元:https://00m.in/NvXvl
この言葉は、評論家のマウリツィオ・ファジョーロ・デラルコのキリコ作品に対する批評だが、端的でわかりやすい解説ではないだろうか。
つまり、キリコの興味は目の前にあるものをそのまま描くのではなく、その裏側にあるもの、心 (思考) が捉えたものを表現することにあったのだろう。
デ・キリコの名言⑩
この作品は贋作だから燃やせ。
Burn this work because it is a forgery.
引用元:https://00m.in/gMjWj
贋作 (がんさく) とは、模倣品 (≒にせもの) のことである。キリコは自身が過去に制作した作品の真作証明書 (本物である証明) を画商から求められたとき、このような発言をした。
真意はさまざまに解釈できるが、自分の過去作品が気に食わないので、贋作認定してしまったという説が有力だ。
実際、キリコは過去作品の複製を描き、そちらを真作 (本物) にしたいという考えを持っていた。自身の作品に独特のこだわりを持っていた、キリコらしいエピソードである。
ジョルジョ・デ・キリコをさらに味わう
デ・キリコの名言を読んで、さらにキリコ本人や作品について知りたくなった人もいるだろう。
ここでは、そんなあなたのために、キリコに関する資料を3つ紹介しよう。
デ・キリコ大特集
この記事を書いている2024年現在、日本では東京 (その後は神戸) でキリコの大規模な回顧展が開かれている。
それにあわせて発売されたのがデ・キリコ大特集である。この本の特徴は展覧会の展示作品を中心に、読みやすいカジュアルな筆致で、キリコに関するいろいろな情報が網羅されていることだ。
そのため、展覧会へ行く予定の人はもちろん、そうではない人も「キリコ入門書」として使えるだろう。キリコについて知りたいけど、堅苦しくて時間がかかるのは嫌、というタイパ主義のあなたにぴったりの一冊である。
もっと知りたいデ・キリコ
デ・キリコ大特集同様、入門書として新しく発売されたのがもっと知りたいデ・キリコだ。デ・キリコ大特集と比べると、若干硬めの文章で、いわゆる「美術の教科書」のような一冊である。
したがって、教養として真面目にキリコを理解したい知性派のあなたは、こちらの一冊を選んでもよいだろう。個人的には、本の表紙に使われているキリコの絵が美術解説書らしくて素敵だなと思う。
デ・キリコ アート・ギャラリー
デ・キリコの日本発売画集は意外と少ない。また、数万円するような高価なものもある。その点、デ・キリコ アート・ギャラリーは日本語のもので、価格もそこまで高くはないのでバランスが取れた画集といえる。
画集ということでビジュアルが豊富、外観もブラックで統一されて重量感があるので、永久保存版として普段は飾っておいてもインテリアになるはずだ。
全体のまとめ
自身の作品に対する強いこだわり、ニーチェを始めとした哲学からの影響を感じさせるのがキリコの名言の特徴である。
一方、自分の気持ちに正直なキリコの性格を反映した辛辣な言葉もいくつか紹介したが、そのキャラもある意味で芸術家らしいといえる。
名言だけではなくその作品、生涯の出来事と一緒にまとめて味わうと、より理解が深まるだろう。
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